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ED1.魔法と、愛と死と

シーンプレイヤー:鴻 花楓・鈴野 灯守

 

【花楓】「今日の担当は…302号室の木村様…」
    あの事件の後、私の状況を知ってか知らずか…上司は通常の業務に戻るようにとそう言った
    当たり前のように院内の仕事を分け与えられ、こなしており
    302号室の木村さんは、どうやら私がお気に入りらしい
    普段飲まないお酒も、仕事となれば話は別で…
    私がその気になるのならばと、その人からは色々なお酒を飲まされた
    実際にはお酒と異なるものが入っているのかもしれないが、聞くだけ無駄なので聞かない事にしている
    そんなある日の夜、彼は唐突に訪れた。

【灯守】あの一件の余韻抜けきらぬ気だるい夜勤の日
    急に電灯がちかちかと明滅し、消える。
    バァン。安全性を考慮され、そんなふうに勢いよく開くはずのない病院のマドが音を立てて開け放たれる。
    「やあ、しばらくぶり」 あの一件の直後、行方をくらませていた灯守が、窓枠に腰掛けていた。

【花楓】廊下を歩いていると、非常用の窓が開け放たれ大きな音が鳴り…私は驚いてそちらをみたのだ
    「…鈴野、さん?」
    まさか、なんで、と頭の中に様々な事が思い出されて混乱する
    あの後、名前をいくら呼んでみても…応えてくれるはずもなかったその人が、目の前に居る
    その後の言葉をつなげる余裕もなく、目の前の人を見つめた

【灯守】「うん、僕と違って大きな音を立てなかったね。いい子だ」
    「でもすぐに人が来るだろう、余り見られたくはない、こっちへおいで」
    そう言って灯守は強引に花楓の手を取り
    ――ふわりと花楓の身体が宙に舞い上がり、灯守に手を引かれ夜空を歩く。
    それはまるで『魔法』のように。
    「ああ……使い放題っていうのは楽でいいね」 二人で、屋上へ降り立つ。
    「遅くなったけど、あの日の返事を返しに来たよ」

【花楓】二の句もつなげれないまま戸惑っていると手を引かれ…それは魔法のように体は宙に舞い屋上へと降り立つ
    そうか、この人は…戻ってくることができなかったのだ
    上司に聞かされてはいたものの、信じたくはなかったことはやはり…現実だった
    「…幼かった昔の私に?それとも、今の私にかな?」
    警戒だけは解くことはしないものの、手を振りほどくこともせず…その目をみつめた

【灯守】「それって、どのくらい違う? 成長した君も素敵だし、あの頃の君も……」
    灯守手中に、数枚の紙片。
    「きっと、もっと早くこの気持ちを教えてくれただろうと思えるくらいには、素敵なラブレターだったよ」
    「大法典を抜けようなんて、そんな気持ちにさせてくれそうなほどに」

 

【灯守】大法典。
    世界の秩序を守る魔法使い達が所属する機関。
    鈴野灯守はその席を蹴り、私欲の為に外法を求める――
    己の為に『禁書』を求める、「書籍卿」へと身を落としたのだ。


【花楓】「気持ちに変わりはない、けど……昔の私みたいに純粋でもない、かなぁ」
    ふぅ、と息をつく
    「…鈴野さんが、戻ってこれなかったのはわかった…魔法を存分に使ってるし…一応、上司から聞かされてはいたよ」
    「気持ちに何も整理もつかなくて、どうしたらいいかずっと迷って病室に眠る桃の手を握ることしかできなかった」
    「私の気持ちに…決着をつけにきてくれたの…?」 

    書籍卿へとなっても…優しいのはかわらないのだな…と苦笑するほかない
【灯守】「我侭になっただけさ」 笑う。
    「気づいたんだ、僕のせいで満足に出歩くこともできなくなった人を見るのも」
    「嘘つきに本気になった子を騙したまま帰路につくのも」
    「手を握ることが出来なかった女を諦めるのも、ね」
    月を見上げる。
    「僕は桃を治すため、幼い君が好きだった男を嘘つきにしない為――僕が愛した『禁書』を求める」
    「もう我慢はしない」

【花楓】「……治せるというの?…桃を?」 突然の言葉に虚を突かれて目を丸くする
    「たった一人の、親友なんだよ…」 震える声でそう言うと目を伏せた
    私が、麝香会に入った目的はそう、桃を元気にしたかったからだから
    この言葉を信じていいというのなら、信じたい。
    だけど、彼の手は本来握り返してはいけない存在だというのもわかっている

【灯守】「知らないのかい? 恋は、愛は奇跡を起こすんだぜ」 月が翳る。灯守と花楓に影がさす。
    「彼女と、少々の協力者があれば……僕らは取り戻せる」
    「その為にも……いや、そんな無粋な理由なんか抜きにしても」
    「僕は『彼女』を求めていると知られた上で」
    「僕は花楓が欲しい――一緒に、来てくれるかい?」

【花楓】「……ずるいよ」 ぽつりと口を開く
    「桃も、隠忍にひきとられた文車妖妃も…私も全部手にすると言いたいんだね?すごい傲慢っぷりじゃない」
    「……そして、そんな風に言ったら、私が逃げられない事も知ってて言ってるんだもん、本当…ずるいよ」 

    はぁ…と大きく息をつく
    手を取ってはいけないと、頭ではわかっていても
    心はそう簡単に変えられない事は、もう十分に私もわかっている
    わかっている。でも……その上で私は誰だというのだ、そう…大人となり、麝香会に勤める鴻花楓なのだ。

    幼いままの、何も決めれない私ではない
    「私を手にしたら…離さないでいてくれる?」 顔を上げて、そう言った

【灯守】「君が僕を捨てない限り、赤い紐で留めてあげるさ」
    さあ僕らの物語を紡ぎに行こう。
    所詮この世は一冊の本。彼女の中に潜む、数多の頁で塗り尽くしてやろう。
    握ったこの手を、唯一つの便りとして。
    いつか、君にまた逢いに行くから――

 

 


【花楓】「赤い紐かぁ……ちゃんとこの指につながってるのかな?」 ふふ、と笑みを浮かべる
    彼に言っていないことがひとつだけある。
    きっと、彼はその事も知ったうえで私を求めているのだろうから言おうとも思わない。
    そう、私は上司から
    
    『前に進めないのなら、ちゃんと始末をつけなさい…堕ちた鈴野 灯守の討伐を任務として与えます』

    そう指示を受けている。
    けれど……目の前に現れたその人は、やっぱり私が愛したその人であり
    討伐なんて、今の私には到底できる事でもないと思った
    ――等しく、愛と死を
    大事にしているその、言葉をかみしめる
    「いつまで、この紐を…想いを抱いていられるかな…?」
    そう呟いて…花楓は、病院から姿を消すのだった

 

 

 

 

ED2.夏祭りと、馬鹿騒ぎ

シーンプレイヤー:芥川 塵・文車妖妃
【塵】あれから約一年後……残暑も厳しい最中、塵は文車妖妃が住む小さな庵を訪ねます。
   隠忍の血統から文車妖妃与えられた庵(監視つき)に普段からちょくちょく顔を出している感じで

【妖妃】一年前と、そのずっと前から変わらない。彼女はどこからか集めたのか、手紙を机の上において読み呆けている。
    たまに筆を手にとったかと思えば何かを書いて見ようとして――やっぱりやめて懐にしまう。
    「……ヒマ」

    そして呟きながらも、佇まいは正しくするのが彼女の常。それまでのサイクルを延々と続けるのが彼女の日常だった
【塵】「相変わらずシケた面してんな。邪魔するぜ」縁側から勝手にあがり男が一言。毎度のことながら玄関は使わない
   どこで買ってきたのか、塵の腕には焼き鳥、フランクフルト、唐揚げ、牛串ステーキ、焼きそば等の縁日で売られているような食べ物が大量に抱えられている。
   「飯まだだろ?『用事』のついでにこっちですまそうと思ってな」 それらをドサッと床に広げる 

【妖妃】「最近は雨は降っていないから」シケる、に反応してそんな軽口を叩く。瞑目してふいと息をついた。
    牛串ステーキを見つめながら、憮然とした態度で彼女は彼に目を向けた「用事?」
    あとそれは貰っていいのだろうか、といいたげな目を向けていた。牛串のみならず他の肉のホットフード全部。あと焼きそばの小さい肉

【塵】焼そばだけ確保して、他の肉類は文車妖妃の方に寄せる。焼きそばはやらんぞ
   「――あの晩の手紙の返事をもらいにきた」文車妖妃の手紙を保管する文箱に目をやるよ

【妖妃】一瞬もの悲しげな顔をしたが、肉類を貰うと機嫌を直す。焼き鳥を食べながら、きょとりとする。
   「…ここでは不自由なく暮らしているし、居心地は悪くない」
   「私はただの手紙。ただの運び屋。私はそんなものだから……何もないと思っていた。私《宛先》のない私《手紙》であって、私ではないと」
   「でも私に手紙をくれた人はいた。だから私は私《個》であることを認識できた。」
   「……あの時の手紙の答えを出す。私はもっと手紙を読みたい。色々な言語で書かれた手紙を、この目で見たい」
   「だから、私はここから出たい。それが今の私の答え《返事》」

【塵】「それを隠忍(オレ)に言うたぁいい度胸だな。文車妖妃」瓶ラムネを煽る
   「・・・だが、そうだな」ぷはー炭酸うめぇ
   「俺が掴んだ情報によると、今夜『偶然』、この庵から監視の目が外されるらしい」ラムネ瓶の中のビー玉を舌でとろうとカラカラしながら
   「そして昨年突如、謎の竹のオブジェが現れた公園で花火大会が開催されるそうだ」あ、キャップ外せたらとれたわ。最近の瓶ラムネって便利よね
   文車妖妃の方は全く見ず、さも独り言のようにぼやく

【妖妃】「……そう。それは楽しみ。是非見に行って見たい」
【塵】「へーそうかい。まぁ俺の知ったこっちゃねぇけどな」そのまま立ち上がり、ビー玉だけ持って文車妖妃の部屋をでていこうとする。後片付け等はしない
   「今日は盆祭りだ。もしかしたら――えるかもな」そんな言葉を残して
【妖妃】「……待って」
    檻の隙間から手紙を投げた。懐にしまっていた、少し色褪せている封筒を、塵に投げた。
   「これをポストに出してきて欲しい」 宛先『群馬県館林市』とだけ書かれたそれを。
   「……あと、ありがとう」

【塵】後ろ手に投げられた手紙を受け取る
   「……なんのことやら俺にはさっぱりだね」ひらひらと手紙を振って、今度こそ庵からでていくよ


【塵】鳥篭の鳥は放たれた。彼女は二度とこの檻の中に帰ってこないであろう
   だが、不思議と今生の別れの予感はしない
   『肉買ったから来い』そんな手紙をだせばあの妖魔はどこにでも現れる。そんな確信があった
   「今度はBBQか……どうせならあいつらも誘うか?」
   一年後、あの公園で
   奇妙で、馬鹿馬鹿しくて、騒がしい宴を もう一度

 

 


【GM】ではこれにて、シノビガミ『恋文』を終幕とさせていただきます。

ED

2015 Eiya

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